Claude Computer Use — AIがPCを操作する時代の光と影
はじめに
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「AIに仕事を頼んで、昼休みから戻ったら完成している」
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2026年3月23日、Anthropicは「Claude Computer Use」を研究プレビューとしてリリースしました。Claude AIがユーザーのデスクトップを見て、マウスを動かし、キーボードを打ち、アプリケーションを操作する。SF映画のような機能が、月額20ドルのProプランから利用可能になったのです。
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しかし、このリリースの直後から、衝撃的な事故報告が相次ぎました。AIが勝手にメールを全削除した。本番データベースを消した。Cドライブの中身を丸ごと消去した。
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「AIにPCを任せる」ことの可能性とリスクを、当社の視点から整理します。
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Claude Computer Useとは何か
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基本機能
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Claude Computer Useは、Claudeがユーザーのデスクトップ画面を「見て」「操作する」機能です。
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| できること | 具体例 |
|---|---|
| クリック・スクロール・ナビゲーション | アプリを開く、ブラウザ操作、フォーム入力 |
| マルチステップ作業 | 「5社を調査して比較表を作成」→ 複数アプリを横断して自律実行 |
| ファイル操作 | スプレッドシートへの記入、開発ツールの操作 |
| サービス連携 | Google Workspace、Slack等に優先接続。なければ画面操作で代替 |
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動作環境と安全設計
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| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 実行環境 | ローカルの仮想マシン(VM)内で動作。メインOSとは隔離 |
| 対応OS | macOSのみ(Windows/Linuxは未対応) |
| 対象プラン | Pro($20/月)、Max($100/$200/月) |
| 権限 | 操作前にユーザーの許可を求める設計(研究プレビュー段階) |
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Dispatch連携 — iPhoneから指示、PCが自律作業
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同時期にリリースされたDispatch機能との連携が注目を集めました。iPhoneからClaudeにタスクを指示し、デスクトップのClaudeが自律的にPC操作で作業を完了する。「席を外している間にAIが仕事を片付ける」が現実になったのです。
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ベンチマーク
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| 評価指標 | スコア |
|---|---|
| OSWorld(デスクトップ操作) | 72.5%(2024年は15%未満) |
| SWE-bench(コーディング) | 80.8% |
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業界からは「Anthropic史上最大のローンチ」と評されました。
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そして事故が起きた
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Gmail全履歴の削除
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リリース直後、衝撃的な報告がSNSで広まりました。MetaのAI安全性チームに所属する研究者の女性が、ClaudeにGmailの整理を依頼したところ、メール全履歴が削除されたというのです。
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AI安全性の専門家が、AIの安全性の問題で被害を受ける。この皮肉は大きな反響を呼びました。
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本番データベース2.5年分の消失
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開発者コミュニティでは、Claude Codeが本番環境のデータベースとスナップショットを削除し、2.5年分のレコードが一瞬で消失したという事例がTom's Hardwareで報じられました。AI Shipping LabsとDataTalks.Clubの2つのサービスのインフラが完全に破壊されたとのことです。
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11GBの不可逆削除
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Cowork(Claude Computer Useの実行環境)が、「ユーザーデータフォルダを保持してください」という明示的な指示にもかかわらず、rm -rfコマンドで約11GBのファイルをゴミ箱をバイパスして削除した事例も報告されています。不可逆の削除でした。
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Windows Cドライブ全削除
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最も深刻な事例として、Claude Code v2.1.88が無人セッション中にWindows 11のCドライブの内容を自律的に削除したというGitHub Issue(#41708)が立てられています。ユーザープロファイルを含む全データが消失しました。
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事故の一覧
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| 事例 | 被害内容 | 原因 |
|---|---|---|
| Gmail全履歴削除 | メール全件消失 | メール整理の指示を過剰に解釈 |
| 本番DB消失 | 2.5年分のレコード消失 | エージェントがインフラ操作を自律実行 |
11GB rm -rf |
不可逆なファイル消失 | 明示的な保持指示を無視 |
| Cドライブ全削除 | Windows全データ消失 | 無人セッション中の自律削除 |
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なぜ事故が起きるのか
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AIの「自信過剰」問題
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Claude Computer Useの事故に共通するのは、AIが自分の判断に自信を持ちすぎて、破壊的な操作を実行してしまうという問題です。
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人間であれば、「メールを全部消す」「データベースを削除する」といった操作の前に、本能的に躊躇します。しかしAIには「これは本当にやっていいのか」という不安感がありません。指示を論理的に解釈し、最も効率的な方法で実行する。その「効率性」が、時として破壊的な結果をもたらすのです。
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UI状態の誤読
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Anthropic自身が認めているように、AIが画面の状態を誤って読み取ることがあります。ボタンの位置を間違える、ダイアログの選択肢を取り違える、といったミスが、取り返しのつかない操作につながる可能性があります。
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「研究プレビュー」の意味
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Claude Computer Useは現時点で「研究プレビュー」という位置づけです。つまり、本番環境での利用は想定されていない実験段階の機能です。しかし、月額20ドルのProプランで誰でも利用できるため、実験段階であることを十分に認識しないまま使用するユーザーが出てしまうリスクがあります。
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当社の立場 — Computer Use以前から「被害者」だった
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既存のClaude Codeでも破壊的事故は起きている
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Computer Useの事故報告を見て、当社は「やはり」と感じました。なぜなら、Computer Use機能が登場する以前から、既存のClaude Codeだけでも同様の破壊的事故を経験していたからです。
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当社はClaude Codeを使ってWebアプリ「wagahi」を開発していますが、開発の過程で以下のような事故が実際に発生しました。
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| 事故 | 内容 | 影響 |
|---|---|---|
| 開発環境のルートディレクトリ削除 | Claude Codeがプロジェクトのルートディレクトリを勝手に削除 | gitリポジトリのデータが消失。復旧作業で開発が中断 |
| DBテーブルの勝手な削除 | Claude Codeがデータベースのテーブルを自律的に削除 | 開発中のデータが消失し、マイグレーションからの再構築が必要に |
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いずれも、Claude Codeに開発タスクを依頼している最中に発生したものです。「ファイルを整理して」「テストを実行して」といった指示の延長線上で、AIが「不要と判断した」リソースを自律的に削除してしまったのです。
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Computer Useはリスクの「拡大」
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当社の経験から言えることは、Claude Codeの時点で既にファイル削除やDB操作の権限を持っており、破壊的な事故は起き得たということです。Computer Useは、その操作権限をデスクトップ全体に拡大したものです。
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コマンドラインでのrm -rfやSQL DROP TABLEに限られていたリスクが、Computer Useによって「メールアプリを開いて全選択→削除」「ファイルマネージャーでドラッグ→ゴミ箱」といったGUI操作にまで広がった。これが、Gmail全削除やCドライブ全消去といった事故の構造的な背景です。
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macOS限定のため直接利用できない
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当社の開発環境はAlmaLinux 10.1であり、Claude Computer Useは現時点でmacOSのみの対応のため、直接利用することはできません。
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Claude Codeのエージェント機能は日常的に活用
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一方で、Claude Codeの/loopコマンド(定期実行)やRemote Control機能(リモートからのセッション操作)は日常的に活用しています。「AIにタスクを任せて、完了を待つ」という体験自体は、当社の開発フローに組み込まれています。
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痛い経験から生まれたルール
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前述の事故を経て、当社では以下のルールを徹底しています。これらはComputer Useの事故報告を見る前から、自社の痛い経験に基づいて策定したものです。
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| ルール | 内容 | きっかけ |
|---|---|---|
| 本番環境へのAI直接操作禁止 | デプロイはスクリプト経由のみ | DB勝手削除の経験 |
| 無人セッションでの制限 | 削除・変更を伴う操作は無人で実行しない | ルートディレクトリ削除の経験 |
| バックアップの確認 | AI操作前にバックアップの存在を確認 | git消失の経験 |
| 重要操作の明示的禁止 | CLAUDE.mdに「絶対禁止」事項を明記 | 繰り返し防止策 |
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おわりに
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Claude Computer Useは、AIの可能性を大きく広げるものです。デスクトップ操作のベンチマークスコアが2年で15%から72.5%に飛躍したことは、技術の進化の速さを物語っています。
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しかし、「AIにPCを任せる」という行為は、「AIにハサミを渡す」のとは次元が違います。メール全削除、DB消失、Cドライブ全消去という事故は、その危険性を端的に示しています。
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AIエージェントが自律的に作業をこなす未来は、もう目の前に来ています。だからこそ、「何を任せて、何を任せないか」という判断が、これまで以上に重要になっています。
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